イノベーションマネジメントは本当に必要なのか?

 イノベーションを生み出すプロセスは産業や企業規模によって異なるはずだ。他社の模倣ではなく、自社にとって最適なルーティンを見いだすことが企業にとって大切な課題の一つであると思われる。
 企業は成長しなければならない。なぜなら、成長率が高ければ、株価が上がり、有利な条件で増資や資金調達が可能になるからだ。そして獲得した原資によって優秀な社員の活躍の場が広がるし、ストックオプションを通じて社員に報酬を支払うこともできる。
 企業が成長するためには、新しい市場の開拓が大きな助けになる。なぜなら、新しい市場に早い時期に参入した企業は遅れた企業よりも先駆者として圧倒的な優位を保てることが多いからだ。既存の市場に後から参入して過酷な競争で疲弊するより、新しい市場を開拓した方が低リスクで、リターンが大きい場合もある。コアビジネスが伸びる一方で新しい市場の開拓を繰り返すことによって企業は常に企業規模に見合った成長を期待することができる。
 では新しい市場が開拓される環境が整っているのかというとそうとも思えない。日本は1990年代前半にバブルが崩壊し、2000年には連結会計が開始された。ROAを極大化するため、メーカー、総合商社などを筆頭に、企業規模を問わず、不採算事業の整理が進められた。その後、出血を伴う事業整理の痛みからか、経験やデータのない新しい市場の開拓に必要以上に臆病になった感がある。同じ頃、楽天ライブドアなど、ベンチャーが相次いで上場し、潤沢なキャッシュを獲得して、積極的なM&Aを推し進めた。しかし、間もなくネットバブルが崩壊し、IPOによって原資を獲得するのは以前にも増してハードルが高くなったように思われる。その一方でベンチャー支援税制のメリットもいまだ限定的である。
 また企業規模を問わず、どこの企業を見てもR&D案件は山積みである。既存市場に対応する既存技術(コアビジネス)、新市場に対する既存技術(事業開発)、既存市場に対する新技術(要素技術の先行開発)、新市場に対する新技術(ビジョン)など、性格の違う案件に優先順位をつけて、限られたリソースをその都度、振り分けるのでは限界がある。どうしても目先の顧客と収益を優先し、企業の成長性を占うビジョンが一番後回しになってしまうのはごく自然な話だ。
 このような環境の中で、どうすれば新しい市場の開拓を繰り返すことができるのか。先ずはリソースの配分が重要であろう。コアビジネスで稼いで、一定割合の原資を半ば強制的に成長事業に割り当てる。破壊的なものを発掘し、形成する人材も必要だ。そしてその原資と人材でコアビジネスに影響しない、独立採算の小さい組織を作る。失敗を事前に織り込んだ計画を立案して、失敗を恐れずに積極的に市場に挑む。あえて低い完成度で市場に投入し、フィードバックを受けることで技術の精度を高めていくといったスピード感も必要だ。結果としてコアビジネスとなり得る技術は積極的に取り込む。コアな技術以外は戦略、プロセス、人材、資源の全てにおいてオープン化を検討し、社外のパートナーも巻き込むことによって、R&D投資効率を高めていくことが重要である。
 これまでイノベーションマネジメントは大企業を対象に語られることが多かったように思われるが、これからは、独立か社内かを問わず、体力的に余裕のないベンチャーにとっても事業存続の鍵となるはずだ。
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