外部との関係性の最適化

 イノベーションマネジメントにおいて、顧客や市場、パートナーといった、外部との関係性を最適化する必要がある企業は少なくないのではないだろうか。
 例えば、新しい市場の場合、市場調査が役にたたない、潜在的なユーザーに対する利益は評価できない、あるいは、そもそもユーザー自身が市場に気づいていない、気づいてはいるが表現できないといった問題はごく頻繁に起こり得る。このような経験やデータがない新しい市場に対しては、探検的マーケティング(Expeditionary marketing)が有効だと思われる。新しい市場の開拓は、コアビジネスに影響しない、独立採算の小さな組織が行うべきであろう。事業計画も予め失敗を織り込んだものにして、敢えて低い完成度で市場に投入し、市場からフィードバックを受けることで技術の精度を高めていくというスピード感も必要だ。また、デルファイ法など、将来のトレンドを予測するテクニックを通じて、市場に精通した専門家との関係性を確立することも大切である。
 一方でパートナーの存在も重要である。ある企業が一社で、潜在的に関連しそうな全ての技術分野で専門性を維持するのは難しい。新しい市場への参入コストや参入リスクを軽減し、規模の経済を実現する、そしてTime to marketをできるだけ短縮するためには、パートナーとのアライアンスが不可欠だ。ある企業にとっての非コア技術は他の企業にとってのコア技術なのである。但し、アライアンスと一言で言っても、状況や目的に応じて、アウトソーシング、技術ライセンス、研究コンソーシアム、戦略的アライアンス、ジョイントベンチャーイノベーションネットワークなど、さまざまな形式がある。しかし、大切なのは形式や取引コストではなく、その技術に対する企業の姿勢だ。
 企業の姿勢を決めるのは技術の特徴と企業の戦略である。コア技術であれば、自社内で専門的能力を発展させる必要があるだろう。補完的技術として取り入れ、自社技術の梃入れに活かすという可能性もある。移転が難しい暗黙的な技術であれば自社開発せざるを得ないかもしれない。また技術の内容によっては企業の信用度に影響する場合もある。しかし、重要な技術だから自社内で発展させる場合があるとも限らない。戦略的にコントロールする必要性がなければ、外部に委ねるという選択肢もある。内部の技術的能力が低ければ、外部から獲得して時間を買うという考え方も成立する。社内外に拘らず、潜在的に重要な技術を見出したら積極的に内部化するというのもよい。特にマネジメントに確信のある技術の場合、内部開発される可能性が高いというのも事実だ。
 企業としては、外部との関係性を最適化することによって、新しい技術を学習し、市場能力を獲得する機会も得て、一企業では成し得ないイノベーションを実現する可能性が高まるだろう。
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